カテゴリー「11) 最近読んだ本」の5件の記事

「阿片戦争(下)天涯編」で、ひたすらため息

歴史の教科書からのほんの数十行でしか知らなかったことが、突然その時代を生きた人々の運命や喜怒哀楽で、大きくふくらみ、色や匂いをともなって目の前に現れる――それが歴史小説の魅力だ。

そして興味津々読み始めた陳舜臣の「阿片戦争」、最終巻では四方山観光気分が吹き飛ばされる戦争の惨禍が繰り広げられた。英国側にとっては、貿易の有利さだけを求めていた威嚇攻撃から、国の力を強烈に印象づける国家としての戦争に変化したことで、その攻撃は容赦なく、一般市民に襲いかかっていく。

正直なところ、軍艦と大砲同士でドンパチやっていた戦争だと思い込んでいたので、ここまで陸上戦で市民の犠牲が凄まじかったとはまったく分かっていなかった。

清朝側もまったく一枚岩とは言い難い百枚岩くらいのてんでバラバラな状態で、被害を自ら拡大してしまう。優れた軍人ほど英国の軍事力を認識しているため、最初から勝ち目のない戦で、勝ち負けではなく、いかに立派に負けるかにこだわって殉死し、何も現状を知らずに楽勝と決め込んでいたダメ軍人は、あっという間に逃亡して生き延びては、意外と悪くない戦後を迎えたりしているのが、何とも皮肉だ。

そんなわけで、個人の幸せなんてまったく顧みない、凄まじい歴史の濁流のうねりを存分に味わって、ため息をつきっぱなしなのに、とても満たされた読後感。

香港の誕生とそこに新しい活路を見いだそうとする人たちの姿も登場する。マカオで酒場を始めた荒くれ者のイギリス人は、香港でホテルをはじめるんだと張り切っていて、実在の人物なら今頃は大富豪になっているだろう。

お馴染みの場所絡みで言えば、SOHOに近い有名な石畳みの坂道、ポッティンガーストリートの名前の由来となった、香港の初代総督ポッティンガーが登場した。高潔な人物ではなく権謀術数の名人として描かれている。しかし、その交渉術で戦わずして目的を果たすことも多々あるわけだから、こういう人がいると、全体的に流れる血の量は少なくなるのかも。

先日、取材で香港最後の総督バッテンの好物として有名になったエッグタルトの泰昌餅店に行ったけれども、時代が違えば、同じ役職にあったイギリス人でも、まー何とものどかなことで記憶されるものです。

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阿片戦争 下 天涯編    講談社文庫 ち 1-3 Book 阿片戦争 下 天涯編  講談社文庫 ち 1-3

著者:陳 舜臣
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「阿片戦争(中)風雷編」香港登場!マカオの世界遺産も

香港で読む陳舜臣の「阿片戦争」も2巻目を終え、圧倒的に不利な戦争に突入している。

「阿片戦争と言えば林則徐」という組み合わせ程度にしか知らなかった林則徐が、いかに難局にあっても信念を失わなかったかが見えてくる。これじゃあ敵からさえも尊敬されて当たり前だ。 しかし、読めば読むほどに複雑なパラドックスに陥ってしまうところが面白い。

何と言っても言語道断で非道な阿片貿易。阿片中毒患者とその家族の悲劇。現代にもしそんなことをどこかの国が堂々とやっていたら、国際社会から非難囂々、米英軍が率先して懲らしめに行くことだろう。いくら200年前とはいえ、欧米のダブルスタンダードにはうんざりさせられたりもする。

だが、しかし。これがあったから、香港という場所が出来て、中国本土とは異なる発展を遂げて、そこに居心地良く英国の残した遺産を享受して暮らしている自分とは? また、英国内でも阿片貿易の悪を非難する声はあり、開戦はわずか8票の差で議決したという。この8人の意思が歴史にこれだけ影響してしまうのだから、面白い。

そして当の林則徐や、架空の人物である連維材は、「閉塞した社会に変化を起こしたい」と、この本の中では渇望していて、満州民族による当時の清王朝に対する漢民族の反感(「どうせ満州人の王朝なんだから滅んだっていいじゃないか」)も絡んでくる。彼ら強硬派を押さえ込んで自分達の利益を守りたい、世の中を見出したくないという穏健派達は、林の清廉さの前で一見、醜く映るけれども、その立場に立てば無理もないこととも思わされる。

この小説で林を主役に据えなかったのは、立場がどうあれ、あまりに人間的に魅力がありすぎる人物を立てると、勧善懲悪的になり、読者がこのパラドックスを味わうことができなくなってしまうからなのだろう。

さてさて、感想はそれくらいにして、いよいよ現在の香港に当たる地域が登場して、何だか嬉しくなってしまった。今のチムサーチョイに当たる漁村の尖沙嘴で、食量を求める英国人と漁民のいざこざが絶えず大事件に発展する。

ヴィクトリア湾も埋め立て前で今よりもずっと大きかった頃。本当につい最近まで、香港とは何もない場所だったんだなと実感した。

さらに嬉しくなったのは、マカオの世界遺産、媽閣廟の登場だ。今も中国人観光客には一番人気の賑やかな場所。小説内で使われる「洋船石」とは、もしやあの帆船の絵が描かれた石か!などと、鮮やかに思い浮かべることができるのが楽しい。

また、マカオで、英国と中国の間に立って微妙な立場のポルトガルの出方もなかなか興味深い。マカオのポルトガル人の態度が気に入らないと、中国本土からの食量供給を絶って兵糧攻めに合わせて言うことを聞かせたという話を聞いて、自分のマカオ記事にも書いたりしたが、同じ手を何度も広州の英国人に使っているのも、なるほどという感じ。

香港の歴史博物館や、マカオの林則徐記念館、広州の商館など、行きたいところがどっと増えてきた!

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「阿片戦争(上)滄海編」での脇役マカオ

香港に住んでまもなく3年、マカオに通い始めて1年半。相変わらず知らないことだらけではあるが、その土地にいて初めて積み重なる経験や出会いというのも出てきた。

本土といえばシンセン位しか行っていないけれども、○○省出身、○○省産、なんて言葉で普通にイメージが湧く位の地理的な知識の素地は出来てきたし、中国というとよく耳にするとんでもない犯罪の話や、お下品な素行を目撃するだけでなく、びっくりするほど親切だったり、知的だったり、上品だったりする中国人の方にもお会いする機会があり、その驚くべき多様性と深みも肌で少しだけ感じられるようになってきた気がする。

そんな中で、うろ覚えだったこの辺りの歴史を読めば読むほど、日本で昔読んだのとは違う実感が沸いて、とても興味深く楽しめることに気付いた。

そして今読んでいるのが陳舜臣の「阿片戦争」。やっと上巻を読み終わって、少しずつ戦争を避けられない状況が築かれてきているところだ。もちろん香港はまだないので、主な舞台は今のところ主役級が広州、脇役がマカオ。

私がマカオに通いはじめたのはつい最近のことだが、昔ながらの港町の風情と大航海時代の影響が色濃く残った情緒ある街並みはとても魅力的だし、大規模開発が進むカジノホテルも毒気が抜かれて、安心して楽しめる明るい場所が多い。しかし、確かについ最近まで、マカオと言えば裏社会、マフィアの抗争など暗くて危ないイメージがつきまとっていたのは覚えている。

そんな裏マカオが築かれた時代の話であるから、「あくまで中継地点であって、何ら自ら生み出さない街」として、この本のマカオは登場する。「そういう感じだったんだろうな」と納得は行くのだけれども、一方で、マカオで会う地元の人達の、それはそれはそこはかとない優しい風情とか、穏やかな人柄とか、芸術を愛する雰囲気とか、確かに国民性みたいなものはそこに明確にあるのに、それが築かれた歴史というのは、なかなかどこからも見えてこない。

などと思っていたところで、この本の中で、私の心を読んだようなエピソードが登場した。あるイギリス人が、マカオ育ちの中国人の商店を訪ね「心の澄んだ、うつくしい人間である。会って話をしているだけで、気持ちがあたたかくなった。けっして威圧を受けるとか、ふかい感銘を胸に射し込まれるといった相手ではない。ほのぼのとしたもの、--国を遠くはなれて、とかく荒みやすくなっている心を、やすめてくれるものがあった」(第二部「買弁」P408)。これはまさしく私がマカオの旧市街を訪ねる時に感じる気持ちなのだ。

その後で、彼はイギリスから一緒に渡ってきた荒くれ者の知人を訪ねる。外国人向けの酒場と売春婦斡旋業で羽振りのいい知人は、新世界で道が開けたと張り切っている。「阿片基地のマカオは、罪悪の街である。ここには、あやしげな酒場、賭場、売春窟、阿片吸引所--悪と名のつくもので、ないものはないありさまだった」(同上 P409)。

そして彼はその二つのマカオの顔を「まったく別世界のように思える」と述べる。
やはり何かしら、マカオにはそんな二面性が長年つきまとっていたのだろうか、と本編とは関係のないところに妙に着目してしまうのだった。

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阿片戦争 上 滄海編 (講談社文庫 ち 1-1) Book 阿片戦争 上 滄海編 (講談社文庫 ち 1-1)

著者:陳 舜臣
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『小説十八史略』と『蒼穹の昴』②

続いて本日、読み終わったのが浅田次郎の『蒼穹の昴』。


10年前に亡くなった父の愛読書で、タイトルを目にする度に、夢中になって読んでいた姿が思い浮かんだものだ。これも文庫本4冊を購入し、里帰り中に読もうとスーツケースに入れて日本に持って行った。

十八史略での驚きの会話から気を取り直して、「今度はお父さんの好きだった『蒼穹の昴』を読もうと思って」と言った私は、あらそう、と微笑む母の表情を期待していた。

しかし、母の顔はさっと曇ってしまった。説明してくれたのは、私の記憶とはまったく違った、さらに驚くものだった。

最後の入院前に第一巻を熱中して読んでいたという父は、入院後、第二巻が出ているのを知って「買ってきて」と母に懇願していたという。当初はほんの一時的な入院のつもりで、まさかそこで自分が死ぬとは思っていなかった父。しかし急激に容体は悪化する。

母が第二巻を渡した時には、ほとんど本を読める状態ではなかった父は、楽しみにしていたその本を、ここに書いてしまうのも申し訳ないのだけれども、自分の汚物で汚してしまったのだという。「その時の、ものすごく悲しそうな寂しい顔が忘れられなくて、可哀想で仕方なくて、このタイトルを見る度に目を背けたくなる」と母。

父はそれっきりもう本を読むことも止めてしまい、やがて口も聞けなくなり、昏睡状態に陥った。本のことがきっかけとは言えないけれども、「もう自分はだめだ」と父が諦めて、一気に死へと向かう序章の中で起きた出来事だったのだ。

自分の記憶―居間のソファの隅っこでメガネをかけた父が一心に本を読む姿と、「父が『蒼穹の昴』の二巻目を買って欲しがっていて、楽しみにしている」と、おそらく電話で聞いたらしい話が私の中で重なって、いつの間にか「父が読みたかったのに読み終わらなかった本」から「夢中で読んでいた本」に置き換わっていたらしい。

そんな寂しい記憶とつながっていると知ったら、何だか私までも本から目を背けたくなって、結局里帰り中に開けることもなく、スーツケースの奥に押し込んで香港に持ち帰ってしまった。

しかし香港で自宅の本棚に並べている時に、ふと「とても続きが読みたかったんだろうな、もう自分は死んでしまうんだから、いいやと諦める時、悲しかっただろうな」と考えていたら、私が代わりに最後まで読んであげるのも親孝行のような気がしてきて、手に取った。

それから一気に読み進んで、父がまだ読んでいなかった単行本の二巻目にあたる文庫本の三巻目に達しようという時には、鳥肌が立った。

そしてなんと最終巻である第四巻目の目次を開いたら、解説を『十八史略』の陳氏がしているではないか。これはなんという巡り合わせ!!

とはいえ、夢中で読んでしまったものの、正直言って私にとっては最高の本ではなかった。陳氏の少しドライな筆致の中に浮かび上がる人々の感情や、井上靖の抑制が効いて叙情的な筆致によって描かれた、日本人とは違う世界観と、文化的背景と、歴史、スケール、時間軸の中で、人生の決断をしていく中国人の登場人物達の示す、想像を超えた知力、行動力、人間性に惹かれていた私にとって、『蒼穹の昴』の登場人物は皆、かなりベタベタしたお馴染みの日本人に思えてしまう。「どんな異国の歴史上の人物だろうと中身は同じ人間なのだから」というアプローチなのだろうとは思うのだけれども。

特に小秀や春児と言う実在しない人物はまだしも、乾隆帝の亡霊が明かす子孫を繁栄させたくない理由が今一つ説得力がないとか、世凱はさすがにそんなに青臭くないだろう、とか、李鴻章のかっこ良さは伝わるのだけれども、なんで兆恵将軍の亡霊のまねごとをしてるんだとか、さすがに毛少年登場はやり過ぎじゃないの、とだんだんと違和感が重なってしまうと、物語から心が離れてしまうのを止められない。妻子との別れには少ししか触れない小秀が、あの子にふるう暴力っていうのもねー、どうもピンと来ないのだ。

そして楽しみにしていた陳氏の解説を読んだら、あらら、「とにかく破天荒な小説だ」「李鴻章の描き方には共感する」という二つを述べたきり、自著の『孫文』のエピソードに話が移ってしまい、まったく『蒼穹の昴』の解説をしていない。

多分、「解説引き受けちゃったけど、こりゃいったい何なんだ。何書けばいいんだよ、おい」という当惑を行間にみなぎらせている感じ。本来なら、解説で「この登場人物は実在、こちらは創作」などと、史実との比較を示して欲しいところだ。作風があまりにも違い、この作品にあきらかに心酔していない陳氏ではなくて、別の人選が必要だったのだろう。

ただ、主人公二人には愛着が湧いているし、確かに読み応えは非常にあるので、エンターテインメントとして楽しんだのは事実。想像もできなかった科挙の試験の様子や宦官の作り方などは迫真の内容だったけれども、これらは史実から拾っているのだろうか。なんだかんだ言って続編の『中原の虹』や番外編の『珍妃の井戸』も読んでしまうと思う。

しかし時々、何だかこう背中が痒くなるような何かがあるんだなふと思い立って、グーグルで「浅田次郎」「あざとい」という検索語を入れたらたくさん結果が出てきたから、同じことを感じる読者も多く、これが彼の作風なのだろう。ずっと昔に読んだ『鉄道員』にも、そういえばそんな印象を抱いたし、読者としての私と作者との相性なのだと思う。

とにかくこうして読み終えたことで、一つ宿題を終わらせて、父にも続きを読ませてあげられた、そんな満足感が残っている。

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蒼穹の昴(1) (講談社文庫) Book 蒼穹の昴(1) (講談社文庫)

著者:浅田 次郎
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『小説十八史略』と『蒼穹の昴』①

長い間、特別な縁を感じながらも、手にとっていなかった2本の長編小説がある。なぜかその両方が中国関連の作品。一つは陳舜臣の『小説十八史略』。もう一つが浅田次郎の『蒼穹の昴』だ。

香港に来てそろそろ3年になろうとしながら、あまりにも中国のことを知らない。そう思って半年ほど前に上下巻からなる陳氏の『孫文』を読んですっかり虜になった後、いよいよ分厚い文庫本6巻からなる『小説十八史略』に手を出した。

最初にこの本を目にしたのは、30年以上前。当時はひどいアトピーに悩まされていた私は、どうにもならなくなると学校を休んで駒沢にある国立病院の皮膚科にかかっていた。日頃仕事が忙しい母がスーツ姿で私を連れて、2、3時間は当たり前という待ち時間を共に過ごしたものだ。

膿んでぐちゃぐちゃになったり、嫌な感じに引きつってどうしょうもなくなった顔の不快さと、それを人に見られる惨めさ、これで何とか薬をもらえばよくなるというかすかな希望、それでもとにかく母と数時間を過ごせて、ランチはその近くのちょっとしゃれたレストランに連れて行ってもらえる楽しみ――
すべてが複雑に入り交じった、甘酸っぱくもなく、ほろ苦くもなく、なんと形容していいのか分からない、奇妙なルーティンだった。


そして果てしなく続く待ち時間の退屈を紛らわしたのが、当時母の読んでいた陳氏の『十八史略』の盗み読み。まったく内容は覚えていかったのだが、「何だか中国の話は凄い。想像を絶するスケールだ」という強烈な印象が心に刻まれている。

その後、本屋で背表紙を見る度に、タイトルをどこかで耳にする度に「これはいつか読み直さないと行けない」と思い続けていた。香港にある日本語書籍の本屋で、ついに思い切って番外編を入れた文庫本計7冊を手に入れて、読んでみた。


4000
ページはある大作で、紀元前1000年頃から約2000年間にわたる歴史とそこに存在した人々が、まさに怒濤のごとく描かれている。傑出した名君の輝かしい時代は数百年に一度訪れるが、その間を埋める歴史の陰鬱さ。皇后の家族、宦官、側近が力を持ち、才気ある跡取りを殺し、傀儡となる幼君、暗君を立てて権勢を思いのままにする。その間、人民は飢えて死んでいく。やがてその一派も他の一派の陰謀で皆殺し・・・・・・。


生きていれば歴史に名を残しただろう名君になった人材が、いったい何人あっけなく潰されたのか。正義は何回負けたのか。ちょっとした運次第で歴史は大きく変わってしまう。

都から遠く離れた都市では少数民族が悲哀を味わい争いが絶えない。先日のウルムチ暴動勃発を聞いて、「結局、現代でも同じ事が繰り返されるんだな」と思ったものだ。めまぐるしく入れ替わる登場人物と舞台で繰り広げられる物語を、一気に読ませる陳氏の超人技に感嘆すると共に、日本で長い時間を過ごした中国人ならではの文化比較が随所に盛り込まれているのも、大きな魅力になっている。

さてさて、先日の日本への里帰りで、「お母さんの読んでた『十八史略』、この前全部読んだよ」と張り切って母に報告してみた。すると戻ってきた反応は「え、私、そんなの読んでたっけ」!! 

あの病院で読んだじゃない、と言っても何一つ覚えていないのだ。「本は確かに持ってるわ」と取り出してきたのは、もっと最近に再刊されたもので、それを眺めながら狐につままれたような顔をしている母。


本の虫な母だから、他にも色々な本を読んでいるのを目にしていたのに、どうしてこの一冊が私の記憶にあんなに深く刻まれていたのだろう。その後、井上靖の『敦煌』『楼蘭』などの中国辺境ものに、しばらくの間はまったりしたから、印象が強いのだろうか。人の記憶というのも何だか頼りないものである。

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小説十八史略〈1〉 (講談社文庫―中国歴史シリーズ) Book 小説十八史略〈1〉 (講談社文庫―中国歴史シリーズ)

著者:陳 舜臣
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