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あの日の少年

最近、8歳の息子の可愛さに改めて目覚めてしまった。近くで見るとずいぶん大きくなったのに、友達と歩く姿を後ろからみると、なんだか思っているよりずっと小さい。

なぜか姉弟と比べて朝に強くて、「コーヒー入れてあげたらダディが喜ぶよ」と耳打ちすると、そそくさとキッチンにいって「ママも飲むでしょ」と言いながら、要領よく、でも一つずつ必要なものや行程を確認しながら、ネスプレッソのマシーンでコーヒーを入れてくれる。いつもは悪戯ばっかりしているのに、こんな時の一生懸命な姿がやけに健気だ。1つでも想定外のことが起きると、慌てるので助け船を出すけど、あーすごいなー、こんなことできるんだなーと後ろでニヤニヤしている私。

台風が多かったこの夏は、毎朝、香港気象局のウェブサイトをチェックして、「今なんて名前の台風がどこどこにあってコースがどうこう」と教えてくれたりしたっけ。

ずいぶん独り立ちしたのに、要所要所でまだまだ甘えん坊で、1歳児なんかのわかりやすい可愛さとは違うけど、噛めばかむほど味がでるような、しみじみとした可愛さなのだ。
どんな経験もぐんぐん吸収するから、いろいろなことを体験させてあげたいなと思う。

そんな子供の可愛さに目を細めている時に、私の心の中ではチクリと刺すような痛みが走る。

あの日の少年も8歳だったんだ、と。
どうしてもっと可愛がってあげられなかったんだろう、と。

それは夫の妹の子、私の甥っ子。今では185㎝はある、すっかりまぶしき青年になってしまったが、当時はまだまだ小さかった。でも、もともと子供がそれほど好きでなく、子供のことが全然分かっていなくて、自分の子供で子供界にデビューした私にとって、長女よりも上の子供のことはどう扱っていいのか、まったく分からなかった。

義妹は当時シングルマザーで、激務の医者。イギリスでキャリアを積むためには、若い頃に公立病院でがんばらなければならないそうで、恐ろしいほどの薄給だったそうなのに、
夜勤に夜勤を重ねて、一流の全寮制学校に甥っ子を小さい頃から10年近く入れていた。年間400万はするというから、想像を絶する大変さだったのだろう。

しかし、夫は単身赴任のまま、私が妊娠9ヶ月で初めてイギリスに一人で住み始めた時(とにかくイギリスで生まないと国籍が不利になると思っていたから)から、その後、何年間も学校が休みになるたびに、都合を聞かれることもなく、お礼を言われることも一度もなく、甥っ子は我が家に2ヶ月近く置いて行かれた。年子で二人目を妊娠中も、三人目を妊娠中も、0歳2歳4歳を、夫はほとんど仕事でいない、親戚も近くにいないし、香港みたいにアマさんだっていないで、必死に育てている間も、とにかく彼は置いて行かれた。

何でも言えば手伝ってくれて、小さいいとこ達ともよく遊んで本当にいい子にしていてくれたけど、彼本人じゃなくて、いくら忙しくても長期の休み中にまったく彼と関わろうともしない
義妹の行動への反感がどうしても頭をもたげて、「私だってぎりぎりで何とかやっているんだから」と、うちの子供たちのために出かけるときに一緒に連れて行くような感じで、甥っ子がこれが好きだから、甥っ子のためになるから、そんな気持ちでどこかに連れて行ったり、何かをした覚えが、ない。

それくらいの年の子が、まだまだ甘えたい年だっていうことも分からなくて「あまりべたべたされるのも嫌なんじゃないかな」なんて勝手に決めつけていた。彼はどんな気持ちでうちにいたのだろう。それを思うとキリキリと心が痛んでくる。ただ、ただ、私の想像力が足りなかったのだ。

やがて甥っ子もある程度大きくなると、母親が仕事でいなくても自宅に一人でいられるようになり、私たちもイギリスを離れて毎夏の居候の日々は終わった。

今ではすっかり大人になって、大学の夏休みに遊びに来ると、うちの子達は大喜びで、まとわりついて離れないし、よく遊んでくれるなーと関心する。ひょーひょーとして、あまり
物事にこだわらない、マイペースな大人に成長した。

でも、今になって「あのとき、あの子は、8歳だったんだ」と気がついたら、それから後悔の念がわいてしまって、本人に向かって「ごめんね、もっと一緒にいろいろすればよかったね。私は子供のことがよく分からなかったんだ」と言い訳したい衝動にかられてしまう。本人はそんなこと言われたって何のこっちゃというだけだろうに。

義妹は、あれだけ頑張ったせいか稼ぎもよくなってそれなりの地位を得たし、気の優しい人と再婚して、すっかり丸くなった。

この夏休みに2週間、甥っ子を泊めただけでお礼のテキストが来て、「うわ、thank you だって」とびっくりしたし、あーこの人も余裕が出たんだなーと思う。甥っ子には赤ちゃんの妹
ができて、彼が今、自宅に戻るとそこには家庭がちゃんとある。彼には遅すぎたかもしれないけど、10年近くたつとそんな変化もあるんだな、でもあの時しかできないことをしておけばよかった、あの年齢でしか味わえない楽しい思い出をつくってあげればよかった、と今更思ってしまうのだ。あーあ。

後悔先に立たず。

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