香港に住んでいる外国人は、駐在員だったり、外国暮らしが好きだったりで、あちこちを転々としている人が多い。
香港に何年いるの? 前はどこにいたの? そんな話の流れから、「ノルウェー、スイス、イギリス、日本、大昔にアメリカに住んでいた」と言うと、「どこの国が一番暮らしやすいと思う?」と質問される。
そしてその答えは、香港なのだ。
日本はもちろん母国だし、食べ物は最高だし、長年の友人もたくさんいるし、家族もいるし、私にとっては居心地がよいけれども、日本語が話せない夫にとっては色々と難しい。特に、夫が昔、駐在員として広尾近辺に住んでいた頃は、普通の商店街でも当たり前のように通じていた英語が、私の地元の商店街ではまったく無理。何から何まで私に通訳を頼まないといけないのは辛かった模様。これが香港だと、ほぼ99%英語が通じるという大きな違いがある(まあ、元植民地なんだから、仕方ないのだけれども)
決定的なのは、インターナショナルスクールの学費が高すぎて子供を通わせられないこと(一人年間300万、子供3人だと900万って、え、そんな無茶な)。子供達が日本に馴染んでくれたのはとても嬉しいことだけれども、この2年でやっと年齢相当の英語力が回復してきた9歳の長女のことを考えたら、いまさら日本の学校には戻せないし、会社から駐在員待遇(つまり会社が学費を負担してくれる)で日本へ、というのでないと、子ども達の学齢期の間は当分住めそうもない。
ちなみに夫は「リタイアしたら日本に住みたい」のだそう。なぜかというと、東京はサイクリングに最高! 毎日サイクリング三昧できる! と気づいたからだとか。刺身と日本酒が好きなのも影響しているはず。
香港でももちろん学費は高くてひーひー言ってはいるが、それでも日本の何分の1なので、何とか今のところ続けられている。
じゃあイギリスに行けば、英語ベースの学校で、無料で通わせられるいい公立校もたくさんある、けれども、イギリスでイギリス人のための学校に行っている間、長女はほぼイギリス人になりかけていた。もちろんイギリス人が悪いわけじゃないけれども、イギリスから見ると「日本」なんて地の果てにあるワケ分からない国でしかないし、外国語を学ぶことには理解がないし、子供の友達のお母さんたちと話していて、つい「あ、日本ではこれはこうするんだよ」とか日本のことを口にしてから、場の雰囲気で「あ、そうか、そんなこと関心ないんだな。日本ではどうだ、じゃなくて、ここに馴染むには『昨日、BBCのあの番組、見た?』って話を振らなくちゃいけないんだ」とちょっと落ち込んだりしたこともあったっけ。
ただ、イギリスの文化も風景も家も教育も、とても好きだし、イギリス人は適度に保守的で適度にユーモアがあって、何だか鷹揚で、日本人とは合うのかなと思う。気がつけば子供の頃から好きになるものがイギリスのものなことが多くて、本当にイギリスの文化も景色も生理的に合っていて、永遠の恋人のような国ではあるのだけれども。食べ物は世間で目の敵にされるほどひどくないし、世界中のいい食材がスーパーに揃っていたのも◎。ちなみに気候は、夏最高、冬が最低。
所変わって香港では、ここ最近らしいけれども、日本大好き、え、日本人、あら、素敵、ワタシニホンゴハナセマス、日式最高! という感じ。香港人は「日本ではどうなの?」「日本人はこういうときどうするの?」と、あちらからどんどん聞いてくれたりするし、その他の外国人も、特にアジアが好きだったり、あちこちの国を見てきていたりする人なので、異文化への関心が高い人が主流。やっぱり関心をもたれないよりは、もってもらえる方が気持ちがいい。音楽や映画やファッションや食事など、文化面でも日本発のものが大量に流入しているし、なんだかんだと言って、アジアならではの共通点が多いのも住んでいて楽。気候は蒸し暑いのは嫌だけれども、太陽ってやっぱりなるべく長く出ている方が精神衛生上いいような気がする。
ちなみにノルウェーは、本当に恐ろしいほど自然が美しい国で、ひっそりしていて、国民は大人しいけれども割りと珍しいもの好きで、当時、髪の毛真っ黒のストレートロングだった私は、パンダのような存在で、まあーじろじろじろじろよく見られたし、「珍しい」という理由で親切にしてくれることが多かった。子育て中の家族が本当に大切にされていて、子供達は全然すれていない、純朴そのものという顔をしていて、子育てって幸せなことなんだな、子供を持ってみたいな、という気にさせてもらえたのが収穫だった。
マイナス面は、あまりに厳しい冬(マイナス20度は当たり前で、南にあるオスロでさえかなり暗かった)、スーパーに売っている食材の種類が極端に少ない、何となく「流れ流れて地球の果てにたどり着いて、私はここで朽ち果てるのね」という最果て感があるところ。
そしてスイス。スイスで幸せに暮らしていてスイスを愛している日本人の方をたくさん知っているのであまり悪口は言いたくないものの、私たち家族にとってはある意味貴重といえるほどの相性の悪い国だった。家を借りるのに3ヶ月間、真夏のじりじり燃える太陽の下、1歳児をベビーカーに載せて坂の多い街を歩き回った記憶がすぐに甦ってくる。「法人契約でない外国人には貸したくない」というのは日本にもあることなので理解できるのだけれども、自分がその対象にされるのは嫌なもの。
とにかく出だしからそんな調子で、悪い意味で驚くような閉鎖性を目の当たりにすることばかりだった。ちなみに夫の勤務先は一応スイスではトップクラスの大企業だったのに。
特に日本人に対してというよりは、アフリカ系の血が2分の1入っている夫(いわゆるオバマ氏系)に対して、いくら仕事ができても、どうしても色が黒いのは受け付けられない、というような接し方をする人が何人もいて、非常に腹立たしかった。イギリスに引っ越して、夫の勤務先(黒い人はうちの夫一人であとは全員白人)を訪ねたら、夫の同僚や部下がぞろぞろとやってきて「あなたの旦那さんと仕事ができて本当に光栄です」「心から尊敬しています」と握手攻めにあったときには、その違いのあまりの大きさに驚き感動したもの。
そんなイギリスのおおらかさも、徐々に右傾化して失われつつあるのではと夫は言う。そういう意味でも、人種や国籍を超えて雑多な人々が集まって、外国人をすんなり受け入れてくれて、どこかアジアならではの共通点があって、日本の文化を理解してくれる香港は、我が家には一番住みやすい国だと思う。
これで空気さえきれいだったら言うことないんだけれども。
ついでに物理的な距離が日本から近いのも、長く住むにはありがたい(イギリスでは、父が日本で危篤になってもすぐに帰れず、距離の遠さを恨んだことがある)。
西洋人とのハーフの子が本当に多いので、うちの子たちも全然珍しがられることもないし、差別されることもない。世の中には人種差別が確かにあって現実を知るのも大事だと思うけれども、子供のうちから差別され続けていると、よほどの強靭な精神力を持っていなければ、自己評価を高く保ち続けることが難しいと思うから、避けられるものは避けていたい。
ちなみに大昔、独身の頃にいたアメリカは、住んでいた時は好きだったし、夫と出会ったのもアメリカだし、楽しい思い出も多いけれども、本来の自分ではない、常に戦闘態勢でいないと流れに乗れないような緊張感があって、元気いっぱいの時は充実するけれども、少しでも弱気になると非常に辛いような、そんな印象がある。それにここ最近の傾向からして、ぱっと見でアラブ系に間違われやすい夫にも、あまりいい環境ではないかもしれない。
そんなわけで香港は、私たち家族にとっては、住めば住むほど、好きになれる住みやすい国です。
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