香港から閑話休題、5年間住んだ英国での出産の話です。
うちの子3人は、皆、英国の公立病院生まれです。日本での出産経験がないものの、よく友人と話していて、お互いに「へー! そうなんだ! 全然違うんだね」とびっくりすることが多く、日本でも産んでみたかったものだーなどと思ったりもします。
●出産前までの違い
何がどう違うのか。最大の違いは「出産はタダ」ということ。公立病院なら、検査料から健診、超音波スキャンから入院、分娩、何から何まで全部無料。「病院に行くからお金おろさなきゃ」なんて感覚が消えてました。お金がいるのは駐車場代位だったかな。日本で「入院する時間によって病院に払う費用が変わってくるので、夜中に産気づくと焦った」などと聞くとええーそんな、と思ったものです。
だからといって、「安かろう悪かろう」だったとは思いません。ただ、英国のNHSという医療保険システムは、スタッフ不足(条件のいい、プライベート診療の医療機関にスタッフが流れてしまう)やら、財源不足やらで、「手術の順番待ちを2年していて、手遅れになって患者が亡くなってしまった」などという悲惨な話も聞きました。3人目の時は、英国でもフィリピン人の出稼ぎ看護婦さんが入ってきていて、皆、明るくて愛想がよくて働き者で英語も流暢、ということで現場の評判は高かったようです。当時「英国の病院が、フィリピンの病院スタッフを全部連れて行ってしまって、病院が成り立たなくなった」とか、「看護士の需要が圧倒的に高いので、医師を辞めて看護士の資格を取り直して英国に行く人もいる」などという話を耳にしたものです。
とにかくお産は、待ったなしだから待たせておくわけにいかない。そのため、NHSの方針は「順調な妊婦はほっといて、問題ありの人に集中しなければ」だったようで、妙に妊娠中、血色のいい問題なし妊婦だった私は、健診も検査も何もかも「あー、はいはい、OK、OK」とさらーと流されていました。ちなみに普段の健診も分娩もほとんど全てが助産婦さんの担当で、担当医が登場するのは分娩後のほんの数分。これは人手不足というよりは、これで十分ということなのかも。
不思議だったのは、英国の超音波検査の画像が、ものすごーくクリアだったこと。今見ても、子ども達が既に今と同じ顔つきや肉付きをしているのが見えるのです。一度、一時帰国時に、実家の近所の人気産婦人科で検査をしてもらったら、あまりにもぼんやりして何も見えないので驚いたほど。何でも日本が進んでいるかと言うとそうでもないこともあるんですね。
体重管理も全然ありませんでした。私は実は3回とも20kg以上太ったのですが、体重検査を冬でも服は全部着たまま靴は履いたまま(どっしりしたスニーカー履いていてもお構いなし)、いくら増えても「あーら、赤ちゃん育ってるわね」でおしまい。3回目のときは最後の3ヶ月位、計ってもくれなくなりました。私の場合は、超がつくほど安産体質のようで、何のトラブルもなかったものの、日本にいたら病院によっては、相当注意されたかも、とこれは英国だったから問題なし扱いで済んだのかなーというところ。
● 分娩後のひと時はマーマレードトーストで
英国が良かったのは、分娩室が個室ということ。かなり広い部屋で、「お風呂で産みたかったらどうぞ」とユニットバスまで付いていました。1人目の妊娠時に水中出産の話をよく聞いていたので、「あ、もしかしてここで産んでみてもいいかも」と思って試して見たものの、本格的な水中出産用プールのように大きくないためか、だんだん寒くなってきて、こりゃだめだとすぐに諦めました。
英国らしいな~~という一面は、希望すればアロマセラピストに立ち会ってもらったりもできること。代替治療が公立病院の普通のメニューとして取り入れられているところが、さすが、本家本元です!
まあ何がどう違っても、出産が痛くて辛くて苦しいことには変わりなく、特に1人目の出産後、いったい何だったんだと放心状態になっていた私。そこで「初めてお産を見たインターンの学生医師」が、我慢強い大和魂を見せ付けた私の根性にいたく感動していて、「本当に頑張ったね。You deserve this」と持ってきてくれたのは、たっぷりマーマレードが塗られた薄切りトーストにミルクティーでした!
元々好物であるこの組み合わせ。心身ともに極限の疲労困憊状態でいただけば、マーマレードの酸っぱい甘さとバターが口の中で溶け合っていく至福のハーモニー! カリカリトーストがバターの塗られた部分だけしんなりとしたあの食感! そして五臓六腑に染み渡る、濃くて熱―いミルクティーの芳香! 美味しいものをそれなりに食べてきたつもりだけれども、あのマーマレードトースト&ミルクティーほど美味しく感じたものは未だにありません。
インターンの人の言葉から、「頑張ったご褒美かしら」などと思ってしまいましたが、2人目、3人目は違う病院だったのに、やっぱりマーマレードトースト&ミルクティーが出てきました。
今でもマーマレードトーストを食べていると、うっとりしてしまって「みんなが生まれたすぐ後にこれを食べてね」と、子ども達に熱く語っている私。しかし子供たちは「ふーん、でもマーマレードは酸っぱくて嫌―い、イチゴジャムがいい」と冷めていて、この美味しさをまったく理解してくれません! ま、それをいいことに、マーマレードだけは最高級品を買ってきて、ちびちび1人で食べている私も私……。
●早くお家に帰りたい、楽しくない入院期間
入院期間は短いのが普通で、1人目と3人目は一晩、少し産後に問題があった2人目の時も二晩しか入院していません。「問題ない人は早く家に帰りましょう」と誰かに言われるわけではないのですが、「これだったら早く家に帰ったほうがいいや」と、医師に「お願い、退院させて」と思わず懇願してしまう環境作りがされているのです。
例えば、出産後に配られる食事はいったいぜんたい?? 同じ病院のカフェテリアの食事は美味しかったから、英国の食が貧しいとか、そんなことじゃないんです。うすーいトースト1枚分に安そーなハム一切れとか、「こんなんで母乳だせっていうのかー、おい!」と絡みたくなるほどの貧弱さ。
そして基本的に出産直後からずっと母子同室。トイレに行くのもシャワーを浴びるのも、誰も赤ちゃんを見ていてくれない。「誘拐でもされたら大変」と、気が気ではなく、狭いシャワー室まで赤ちゃんの入ったワゴンをガラガラと押し込んでいました。「看護婦さんに言えば見ててくれるんじゃない」とは言われたのですが、やはり人手不足なのか、皆殺気立って忙しそうで、そんなこと頼める雰囲気じゃなかったですねー。1人目で夜泣きがすごくてどうしていいか分からなくても、あまり構ってもらえなくて不安がつのったものです。
2人目の時は、赤ちゃんの世話の仕方には問題がないものの、「この子は体温が低いので、お母さんの肌と直接触れ合うことが大事。とにかくずっと肌を合わせて抱っこしていなさい」と言われて、出産直後から新生児を丸二日抱っこしっぱなしで、私は「つぶしたら大変」と気を遣って昼に寝られず、夜になると赤ちゃんの夜泣きが激しくて、やっぱり寝られず。これはきつかった! そしてその日から1歳半まで、まともに私が眠れた日は来ませんでしたっけ(遠い目)。
父母同室、確かにいいことだったとは思うのですが、「父母別室で、お母さんはゆっくり産後の疲れを取って、食事は栄養配分完璧な和食が出てきて」なんていう日本の豪華産院の話を聞くと、うらやましい~~と思ったものです。英国にもそういうサービスのあるプライベート産院はあるのですが、まあ公立は無料でもやることはちゃんとやってくれるので、我が家では選択肢に入りませんでした。
ちなみに「皆さん、やっぱり母乳です」と啓蒙に励んでいる(実際にはミルクの人が圧倒的に多い)割には、「紅茶の時間ですよ」と1日に何度も濃いミルクティーを配るお姉さんがやってきました。カフェインは摂取していいのかしらー。欠かさず飲んでしまいましたけど。
その代り、一旦自宅に戻ると、その日から毎日、数週間、助産婦さんが自宅に来てくれて、1時間位は赤ちゃんと私の検査をしたり、色々と質問に答えてくれたりして、至れり尽くせり。なるほど、病院は緊急時の一時滞在所という位置づけで、本格的なケアは自宅で始まる仕組みなんですね。それを思うと、手厚いサービスだったなとも思います。
助産婦さんの訪問で印象深ったのは、赤ちゃんの肌がかさついていると必ず「市販のベビーオイルじゃなくて、食用のオリーブオイルを塗りなさい」と言われたこと。そうかと思って、いそいそと我が子の全身にまんべんなくエクストラヴァージンオリーブオイルを塗りこんでみた私。あまりのいい匂いに、思わず「おいしそう」と思ってしまいました! ごめんね、我が子。
●ブログが気に入ったらクリックしてやって下さい!
最近のコメント